アイスピックのようなもの

読んだ本の感想なり、なんなりを書いてゆく

世界の翻訳事情(1)

英語圏における翻訳者の役割は低い。なんとベビーシッター並みの賃金しか得られないのだという。ベビーシッターといえば、ティーンエージャーの女の子が近所の赤ん坊のお守をして小遣いを稼いでいるというイメージしか無い。あるいは、怪我でもさせてしまい白人に烈火のごとく怒られているヒスパニックの移民とか。そのため、アメリカやイギリスで翻訳者になろうとすれば、本業で稼ぎながら副業的にやるか、学者になるしかない。

 

それと比較すれば、日本は翻訳者に優しい国だといえる。「Is That a Fish in Your Ear?」では日本の翻訳業界について次のように述べられている。

 柴田元幸は疑うまでもなく日本国内で最も有名な英語翻訳者である。出版社からは「柴田元幸翻訳コレクション」が出版され、本屋ではそれを置くための本棚が用意されている有り様だ。単に彼の名前が本の表紙に載っているだけではなく、著者名と同じ大きさの活字で印刷されているのだ。

 日本における文芸翻訳家の地位は、英国や米国の作家たちのそれと何ら遜色が無い。誰でもよく知っている作家めいた翻訳家は大勢おり、『翻訳列伝101』という有名人ゴシップ本まで存在している。(p.303)[私訳]

柴田元幸翻訳コレクション(The Shibata Motoyuki Translation Collection)」なんてのが実際に存在するかはともかくとして、「柴田元幸」は海外文学好きにとって既にお馴染みの名前だろう。これまでに多くの翻訳物を手がけ、村上春樹訳の監修者や雑誌の編集長、書店での朗読会までこなす八面六臂の活躍には敬意を表するしかない。個人的には、スティーブ・エリクソンリチャード・パワーズなどの作品でお世話になった人でもある。

 

とはいえ、さすがに原著者と翻訳家の印字サイズが同じってことはないでしょう、と思ったら意外と背表紙を見てみるとそうなっているから不思議である。試しに手元にあったペンギン・ブックスの翻訳物を調べてみると表紙には翻訳者の名前は無く、本を開いた1ページ目にある題名の下に小文字で記されているのみだった。何たる待遇の差……

 

 

Is That a Fish in Your Ear?: Translation and the Meaning of Everything

Is That a Fish in Your Ear?: Translation and the Meaning of Everything